ひとり山歩き254 : 富山県の馬場島から標高差2240m、距離8.3kmの早月尾根を経て劔岳の日帰りピストンをしてきました。ハードな山行でしたが、天気に恵まれ山頂では360度の大パノラマを楽しむことができました。
早月尾根を経て劔岳(2999)の日帰りピストン
2006年9月20日(水) 晴れ
1 行程
 自宅(9/19,8:40) = 馬場島駐車場(9/19,16:50) − 登山口(9/20,0:50) − 標高1400(2:45/2:50) − 標高2000(5:10) − 早月小屋(標高2200)(6:00/6:20) − 標高2400(7:10) − 標高2600(8:05) − 標高2800(9:20) − カニのハサミ(鎖場)(9:50) − 別山尾根合流(10:15) − 劔岳(10:25/11:00) − 別山尾根分岐(11:05) − 標高2800(11:50) − 標高2600(12:45) − 早月小屋(14:05/14:15) − 標高1800(15:25) − 標高1400(16:10) − 登山口(17:45) − 馬場島駐車場(18:05) − 仮眠(3時間) − 自宅(9/21,3:00)

2 自宅 − 馬場島
 山歩きを始めた頃は、百名山の全踏破に憧れていたが、定年退職者にとっては経済的負担が大きいこと。それにもまして山小屋になじめないことが災いして日本アルプスは南アの北岳・間ノ岳しか登っていない。最近は藪山の面白さにとりつかれ、百名山からは足が遠くなってしまった。それでも、北アと中央アの百名山のどれかには行ってみたという希望は持っている。富山県の馬場島から早月尾根を登れば劔岳も日帰りの可能性があることが判明した。これなら嫌いな山小屋(関係者ごめんなさい)に泊まらないですむ。
 登山道のある山の登りは通常は300m/hを目安にしているが、標高差2240m、距離8.4kmの早月尾根には通用しない。平均250m/hで登れば、往路9時間、復路は7掛けで6.5時間、山頂0.5時間の計16時間で往復できるともくろむ。暑さに弱いので、もう少し涼しくなってから実行したいのだが、10月になると北アには降雪の可能性がある。今が時期と19日に車で馬場島の青少年旅行村の駐車場に移動し、車内泊を決め込んだ。天気予報によれば、19日と20日は晴れであるが、19日は台風通過の翌日のせいか、長野県から富山県に掛けては断続的に雨が降っている。立山ICを下りてから馬場島までは27kmだが、途中からは雨が連続的となってしまった。登山口の様子を見て、車に戻り大相撲放送を聞いているうちに眠り込んでしまった。注:滑川ICから馬場島の道は悪路と聞いていたので、立山ICで下りた。こちらからは道も標識も良好。

3 登山口 − 早月尾根 道筋は明瞭で土嚢で整備されているので暗闇でも問題なく登れる早月小屋  後方のピークは劔御前
 明るいうちに登山口に戻るには、1時頃出発と考え、目覚ましを24時にセットしていたが、23時半頃に車のライトで目を覚ました。車のドアを開けてみると、雨どころか星が降ってきそうなよい天気に変わっているではないか。昨晩のモヤモヤとは打って変わり、心はスッキリ、眼はパッチリで夜食もうまい。駐車場から約200m先の登山口に向かう途中で、キャンプ場のトイレによって身も心も軽くなったようだ!? 
 「試練と憧れ」と「劔岳の諭」の石碑の間を進むと、登山口で突き当たりの看板の右手の階段状の踏跡に入る。暫くは土嚢と板で土留めを施した登山道をジグザグに急登する。100mほど登ると平坦な道を進むようになる。「標高1000m」の金属板を見る。この金属板は以後200mごとに設置してあり、正確ではないが大体の目安にはなる。道筋は明瞭でヘッドランプの明かりで充分歩ける。この尾根筋は比較的急登が続くが、時折り平坦部もあるので一息つける。樹林の真っ暗な道歩きだが、場所によっては北西に上市から滑川あたりの市街地の灯かりが見える。「標高1400m」地点で市街地の灯かりを見ながら一息入れる。
 登山口からずっと土嚢で土留めを施してあり特に危険を感じるようなことはない。時には大木の根元を踏み越えるのに多少苦労する程度。「標高1600m」を過ぎると時々左手の稜線(小窓尾根)がシルエットとして浮かぶ。その後も市街地の灯かりは見え隠れ。「標高2000m」で早月小屋まで1kmの金属板を見てヘッドランプを消灯する。そこから15分ほど歩くと、小さな池塘の脇を緩やかに通過する。その先で尾根上に復帰して標高2200位で岩場をロープで越すと、すぐ先が2224の小コブでこの直下に早月小屋がある。このコブからは目指す剣岳の頭を初めて見る。右手に劔御前から奥大日岳の稜線、左手にギザギザの小窓稜線が窺える。コブから下りて早月小屋のすぐ先にある「標高2200m」の地点で朝食を摂る。登山口からは平均280m/hで計画よりはやや早めである。ここまでは樹林の中で特に問題箇所もなかったが、問題はこの先にあり、ここで気を緩めるわけには行かない。幕場にテント一張。

4 早月小屋 − 劔岳  長い兎に角長い!!  いっきの登りでは日本一といわれるだけのことはある劔岳(標高2850付近から)
 早月小屋から尾根登りになるとコメツガやシラビソがすぐになくなって灌木帯となる。100mほど登った所で振り返ってみると、直下に早月小屋その下に早月川と市街地が見通せる。更に登るとハイマツ帯となり、右手に室堂の建物を見ると「標高2400m」に達した。今までの所は暑さを感じることもなく、特に疲労感はない。ほぼ順調なペース配分ができている。その後、大嫌いな裸尾根状態が続き岩場が出てきたので歩行が慎重になり、それとともに速度は遅くなり始める。岩場をロープで越して「標高2600m」で山頂まで1.6kmの地点に差し掛かる。先刻までは周りの景色を見る余裕があったが、前方の劔岳への急斜面を見ると足がすくんでしまうので鎖場「カニのハサミ」前方は見ないよう心がける。
 2614ピークを左に巻いて通過すると、やや下って緩やかに登り返しになる。このあたりはお花畑だが時期は過ぎてしまった。いよいよ鎖場に差し掛かった。最初の鎖を登って、一息つきながら歩いていると草むらがゴソゴソする。注意してみていると、3メートル先に雷鳥が三羽歩いている。雷鳥を見るのは初めて、しかもこんな傍で見れるとは夢にも思っていなかったので、しばし足を休めて見とれる。「標高2800m」山頂まで0.7km、距離は近づいたが、山頂への急峻な稜線を見ると、いつもの病気(高所恐怖症の気)がでて足が進まなくなる。来たのは間違いだった!! 行こうか戻ろうかの葛藤が始まる。これで帰ったら、もう二度とはこれないぞ、と自分に言い聞かせては進むようになる。いよいよ来てしまった「カニのハサミ」という鎖場に。最初の鎖は登り気味に、次は下り気味なっている。鎖という掴むものがあり、しかも足元の立山連峰  後方に槍ケ岳・野口五郎ケ岳・薬師岳等 (劔岳より)岩棚はしっかりしているので、怖さを感じないで渡れた。更に鎖場は続くが、Webの紀行文で読んで想像していたような恐怖心はなかった。早月小屋を今朝出発したという若者二人連れに出合う。山頂はもう少しですよ、と励ましてくれた。そこから10分ほど岩場を登ると、別山尾根合流点に辿りつく。劔岳山頂にはそこから更に岩尾根を10分ほど進まねばならなかった。
 平日の時期外れということか、山頂にはたった三人しかいなかった。その後35分の滞在の間に10人位が登ってきただけ。山頂からは360度の大パノラマが広がっているが、土地勘のない自分には山座同定ができない。地図と見比べてなどという悠長な時間はない。他のグループの傍に行って聞き耳を立てる。北東に白馬岳から南東に鹿島槍ケ岳の後立山連峰。南西に立山三山方面、その後方に槍ヶ岳、笠ケ岳、黒部五郎岳、薬師岳等が判明した。残念ながら北西はガスが湧いていて早月小屋あたりまでしか見えない。登りに計画より30分も余分にかかってしまったので山頂でユックリしている余裕はない。神社前で写真を写してもらい、エネルギーを補給して下山にかかる。

5 下山(往路を辿る)  
 後ろ髪をひかれる思いはあるが、明るいうちに馬場島に戻るには止むを得ない。念願の北アの代表的な山に登れただけで満足。別山尾根分岐から早月尾根に下りかけたら、馬場島発4時の方と出合う。この方はこの尾根が三回目とのことであった。下りの方が危険だから気をつけるようにとのアドバイスをもらう。今日は早月尾根を歩く人が少なく、追われることがないので、自分のペースで歩けるのが幸いだった。「カニのハサミ」を無事通過して、往路では逆光で写真が撮れなかったので、振り返って剣岳を写す。往路との所要時間を比較すると、おおよそ7掛けになっている。このペースを続ければ充分明室堂方面  後方は薬師岳  (劔岳より)るいうちに下山できると確信する。早月小屋で缶入りコーラ(300円)を買って飲む。水を2.5リットル持参してまだ半分は残っているが、ペットボットル入りのスポーツドリンク(400円)を買って後半戦に備える。
 早月小屋までは太陽に後から攻められて暑かった。更に1時間以上は灌木帯の通過で暑さが続いた。8月でなくてよかった!! 土嚢で整備されているので、下りもそれほど苦にならない。標高1800あたりまでに、単独行2名と3名グループに出合う。いずれも今日は早月小屋泊まりとのことであった。明日も好天が期待できるので、今日よりは登山者も増えるだろう。
 今のペースでは18時頃の登山口になりそう。薄暗くなってしまいそうなので、ペースアップを心がけた。そのうちに富山県の日暮れは栃木県よりも20分くらい遅いことに気がついた。松尾平の平坦地で「標高1000m」の標識を見て、明るい内に下山できることを充分確信した。木登り名人の話を思い出し、最後の階段状のジグザグ下りは安全優先でユックリ下り始めた。ところが薮蚊の予想外の攻撃で、急がざるを得なくなってしまった。沢音が大きくなり、樹間に川筋が見えるようになると、ほどなく無事に下山できた。計17時間で計画よりは1時間遅れだが、念願がかなって満足する。 
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